受講者の声 音読レシテーションスピーチ指導・英語コミュニケーション教育・近江誠

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Opinions

平井明代 様 筑波大学 人文社会系 教授

  • 先日、近江誠先生が主催されている近江アカデミーの体験レッスンに参加させていただいた。少し長くなるが、まずはその経緯から語ることにする。
  • 筑波大学
    人文社会系 教授

研究におけるジレンマ
 現在、ストーリー・リテリング手法を使った英語活動と評価の研究を行っている。文章を読んだり聞いたりした後に、それを見ないで、学習ポイントが使えるかあるいは相手に分かりやすく伝達できるか、その後、そのトピックに関してディスカッションができるか、というスピーキング能力を測る場合に利用できるストーリー・リテリング・スピーキングテスト(SRST)を開発した。
この研究のきっかけは、「ストーリー」を読んだり聞いたりするのが好きだったからだ。毎晩、子供に本の読み聞かせをして夢中になって聞いてくれるのが楽しかったし、図書館で催される本の読み聞かせは、すぐにそのストーリーの世界に誘ってくれる。しかし、リテリングの評価研究だけでは、ストーリーの原文を吟味する楽しみから遠ざかっていることにひっかかっていた。せっかく見つけた面白い話、時事英語の5W1Hの情報が詰まったニュース英語、朗読させたい名作、覚えさせたい表現や文法事項が入った文章など、リテリングテストとして利用し、その後フィードバックに使っても、せいぜい2、3回読み直すだけで終わってしまう。入試や資格試験などの英語の実力を測る外部テストならともかく、教室での評価は、学習のための評価(assessment for learning)として、原文をもっと生かした第二言語習得(SLA)に繋がる活動と評価が必要だと感じていた。
ストーリー・テリングの原点へ
 そこで、もう一度原点に立ち返り、本来のストーリー・テリング活動である「語り」に目を向けた。相手をストーリーの世界に誘うためには、原文を深く解釈し音読するのではなく語らなければならない。その語りを披露しなければならないとしたら、自然と覚えるくらい読み込むのではないか。丁度バイオリンの発表会で感動を与える演奏に向けて練習し、気が付けば譜面を隅から隅まで覚えてしまっているように、焦点を最終のプロダクトに向けさせると、意識せずに何度も練習を繰り返し、自ずと正確に覚えてしまう。そして、自分のものにした表現は別の状況で使えるようになるのではないか。この原文を大切にすることの効果をSLAと評価に生かすことができるのではないかという考えに行き着いた。
近江アカデミーに参加するきっかけ
 では、原文を大切にする具体的な指示の出し方や指導はどうすればよいのか、原文を大切にしつつ自由発話力を身に付けさせるにはどうすれはよいのか、その評価はどうあるべきなのか、リテリング評価と結びつけることはできないかといった様々な課題を抱えて、ネット検索していると、近江誠先生が実践されている「オーラル・インタープリテーション」に出会った。先生のHPには、実際の方法が懇切丁寧に説明されており、YouTubeにもアップされていた。ご著書も何冊か読ませていただき、納得することしかり。近江先生は、私が行き着いたさらなる先を説いておられ、その内容は深かった。しかも近江アカデミーを主催され、誰でも指導を受けることができるようになっていた。早速、アカデミーの鎌倉教室での体験レッスンに参加すべく連絡を取った。あいにく名古屋教室でのレッスンだけになっていたが、迷うことなくつくばから参加を申し込んだ。
オーラル・インタープリテーションとモード転換訓練法のすばらしさ
 当日娘も参加することになったにもかかわらず、臨機応変に、熟達度別でなく個々の生徒の個性を活かす大切さを話されて、全員を引き込むその指導力と英語力の高さに恐れ入った。他所に書かれているので詳細は省くが、素晴らしいと思った点は、「批判的味読の7つのポイント」として、文章を深く解釈し、オーラル・インタープリテーションをするコツが大変わかりやすくまとめられていることである。実際に、受講生がテキストを音読しているのと、テキストを使ってしゃべっているのとでは、メッセージがすっと頭に入ってくる違いも体感できた。また、指導者の力量次第で、読解力や発音などの言語面の向上だけなく、人間の成長にまで働きかけることができそうである。
 さらに、原文を大切にしながら表現力を磨くことができる「モード転換訓練」方法が実によく考えられていた。受講生がグループになって「語り手」、「聞き手」、「場所」などを変化させて実演してくれたことがとても参考になった。モノローグの場合相手のせりふはないが、語り手との関係を決めた「聞き手」を置いて相槌を打ってもらうだけでも対話のようになり、表現が定着しやすくなると思った。恥ずかしながら近江先生とこの対話練習もさせていただいた。乾いた砂に水を差していただいた感じである。砂では水はすぐに抜けて乾いてしまう。もう少し水が抜けないような土台作りをしなければと痛感した。
これら一連の練習は深くやればやるほど、心が揺さぶられる手ごたえのあるものになるだろうと感じた。求めていた課題である原文を大切にしつつスピーキング能力を高める1つの答えが見いだせたようだ。